プシュウッと空気が抜ける音が聞こえた気がした。
座り込むお父さん。
「……」
助けを求めてお母さんを見ると、お母さんも困った顔してた。
なんで入学式の朝からこんなことにーー。
と、そんな時。
「おっはよう~♪」
明るい声がこの妙な雰囲気をぶち壊してくれた。
「おばあちゃま」
私はホッとした。
多分、お母さんも。
「おはよう、星歌ちゃん。今日から女子高生ね」
ウインクしてくれたこの女性は私のおばあちゃまで、お母さんのお母さん。
由貴菜おばあちゃまだ。
「いやだ、星歌ちゃん。由貴菜ちゃんって呼ぶ約束でしょ~?」
訂正。由貴菜ちゃん。
……相変わらず。御年68には見えない。
スタイルも崩れてないし、肌もキレイ。
下手すると二十代って言っても通るくらい若い、由貴菜ちゃん。
今日の由貴菜ちゃんは白地にピンクのバラ柄のワンピースにキャメルのライダースを羽織っていて、栗色の髪を緩く巻いていた。
こんな若い、甘いファッションも由貴菜ちゃんにはよく似合っていた。
「おはよう、由貴菜さん。今日も可愛いね」
同僚の妻で、隣の家の奥さんで、息子の嫁の母という関係のおじいちゃまと由貴菜ちゃんは、とても仲が良い。
「おはよう隆星(りゅうせい)さん。今日も素敵ね」
パパには負けるけど、と由貴菜ちゃん。
……うちはどこもかしこも万年新婚夫婦。
ノロケなんていつものことなんです。
「……よさないか、由貴菜」
聞こえてきた重低音。
唯一の常識人!!
「おじいちゃん」
「おはよう、星歌。おめでとう」
言葉少ななおじいちゃんが、由貴菜ちゃんの旦那様。
「おはよう」
おじいちゃまが素敵な笑顔で朝の挨拶。
「お母さん、おはよう」
「おはよう愛歌。……あら?星君、どうしたの?」
抜け殻なお父さんを見つけて由貴菜ちゃんは首を傾げた。
「ん、と……」
私は苦笑い。
どう言ったら良いものやら……。
「星にね、星歌が女子高生になったんだから、そろそろ彼氏の一人や二人できる頃だから、覚悟した方が良いって言ったんだ」
「一人や二人って……。おじいちゃま!!」
そんな軽く言わないでよ!!
「あら、流星さん。一人や二人なんて星歌ちゃんに対する過小評価だわ。星歌ちゃんなら五人くらいいけるわよ」
「おばあちゃま!?」
何!?それ!!
過小評価とか過大評価とかいう問題じゃないよ!?
「そうか。ごめん、星歌」
「謝らないでおじいちゃま!!というか、謝るところが間違ってるわ!」
「まぁまぁ星歌。五股くらい、なんとかなるって」
「おじいちゃま!?どうしちゃったの!?」
ダンディーなおじいちゃまの言うセリフじゃないわよ!?
「そうよ星歌ちゃん。別に問題ないわ。“自称”彼氏にしておけば良いのよ」
「おばあちゃま!?」
ほっぺに手を当てて首を傾げるその姿は可愛らしい。可愛らしいけど騙されないわ!
それって非倫理的よ!?
かなり腹黒いわよ!?
小動物なおばあちゃまはどこへ!?
「そ、そんな“自称”彼氏いっぱい作ったって意味ないじゃない!!」
声高に反論した。
そうしたら。
「彼氏気取りの男性に贈り物を戴くのよ」
にっこりとおばあちゃまは微笑んだ。
天使のような笑顔で。
「-ーっ!?」
あまりのことに、私は絶句。
遠巻きに固まる私を観察していたお母さんが、おじいちゃんに尋ねた。
「……お母さんの黒歴史……。知らなかったのね、星歌」
「まぁ、当たり前じゃないか……?」
「お母さん、今じゃお父さん一筋だもんね。……昔はご近所のアイドルでかなり貢がれたって……」
「隆星もすごかったけどな……」
嗚呼、おじいちゃま、おばあちゃま。
知りたくなかったよ、そんなこと!!
私は心の中で滂沱の涙を流した。
記念すべき高校の入学式の朝から疲れるなんて。なんか、幸先不安だなぁ……。

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